灰男
□久しぶりに…?
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時刻にして夜中の三時。
周りを見渡せば、悲惨な事に屍累々。目の前には何日かけても倒せない最大の敵、山積みになっている書類、書類、書類…
(あぁ、最大の敵って言えばラスボスじゃん…そりゃ無理だわこんなにいっぱいいちゃあ。あはは)
既に4日目に突入した徹夜生活のせいか(いや確実にそうだけど)、段々と意識が朦朧とし何を考えているか自分でも分からない。
(くっ、完徹3日ごときで倒れるわけには…!)
垂れそうな頭を保つため、最大の味方に助けを求めようとヨロリと席を立った。現在、いつもコーヒーを煎れてくれる天使リナリーは任務で不在。皆の分も煎れてあげようと思い、「コーヒー飲む人〜?」と尋ねると、屍達からもしっかり手が挙がった。コムイ室長に至っては寝ながら手を揚げている。
(きゅ、究極…っ!反射的に手が揚がってる…私も早く一人前になるために見習わなくちゃ)
頭がうまく回らないため少しズレた事を考えながら私は給湯室へ向かった。と、その時──
バタンッ!
「アキ──っ!超久しぶり!会いたかったさー」
ド派手な扉の音と共に登場した人物。
それは、おそらく任務後直で来たのだろう、何となく埃っぽさを漂わせるラビだった。
(ん?久しぶり?…あぁ、そういえばラビの顔見たのって2週間ぶり……くらい?)
徹夜続きだと日にちの感覚が狂っていけない。なんて頭を抱えていたら、いつの間にかラビが側に立っていた。そして、この上ない笑顔と一緒に私に抱きつく。
「ちょっ?!ちょっとラビ…っ」
「ん〜この抱き心地!生き返るさぁ…」
「い、いくら久しぶりだからって皆の前…!」
離してとラビの胸を強めに押す。
そりゃあ私だって久しぶりに彼に会えたんだから嬉しくないわけないよ?でも…
(皆見てるから!凄く視線が痛いから!)
気付け!って目で見ても、完全に舞い上がってるラビには無意味な様で。だからって口にするのもなんか…ねぇ?
そんな私の息詰まった状況を察知してくれたのか、班長が私の名を呼んだ。
「アキ、最近寝ないで頑張ったろ?今日はもうあがっていいぞ(そして煩いラビをどっかに連れてってくれ…)」
「リ、リーバー班長…っ!」
なんと嬉しいことに班長は休みを与えて下さった。
班長…、一生付いていきます!
「お、やったなアキ!これで思う存分ヤれるさ」
…へ?
はいぃいい?!ら、ラビさん、私の睡眠は…?
「そうと決まれば早速アキの部屋行こうぜ!じゃあな〜リーバー達、お仕事ガンバッテ」
超ウキウキで踵を返すラビが恐ろしい…私は哀しみのあまり足に力が入らず、自分の部屋までズルズルと引きずられて行った。
部屋に着いた途端、ラビによってガチャリと鍵が閉められる。
(うわぁ駄目だ…このエロ兎、ヤる気満々…)
その瞬間、私は寝れない事を覚悟した。鍵を閉めるなりラビはくるりと振り向いて、私の唇に自らのそれを押し当てた。突然の優しくも少し強いそれに、たじろぎながらもしっかり受け止める。
「…んっ…っふ、」
まるで、私がいることを確認するかのように角度を変え、何度も何度も交わされるそれ。
嫌じゃない。
久しぶりに会えたんだし、私だってラビと一緒の時間を作りたいって思ってる。しかし、段々と深くなっていくキスに頑張って応えてみても、徹夜続きの頭が早くもぼーっとしてきて足がふらついた。
すると、私のその様子に当然気付いてる、といった風にラビは私の腰に腕を回し支える。そして名残惜しそうに一旦唇を離した。
「…ベット、行くさ」
甘い吐息混じりにそう言われ、本当に脳が溶けるかと思った。
ラビの大きな手が私の腕を引く…
「って、ちょ…ちょっと待って!」
あ、危ない。
危うく、この甘い空気にまんまと流されるところだった…
「なにさアキ。あ、もしかして久しぶりだから緊張してる?かっわい〜」
「ち、違っ…そんなんじゃ…」
ぶっちゃけ、流されまいとの勢いで止めてしまったので言葉に詰まる。
正直今はヤりたくないですだなんてラビが即行哀しむような事、私には言えない。
「あっ、そう!実は…昨日から仕事仕事でお風呂入れてないんだよね、私。だから汚いじゃん?やだなぁ〜なんて…」
咄嗟に思い付いた事だけど、これは本当の事。
実際、自分の部屋すらおとといお風呂に入りに来たのが最後だから…丸1日プラスαぶりだ。
「え?そうなんかぁ…」
そうなんだよそうなんだよ!
ラビが頬を掻きながら悩む。
「実は俺も任務で疲れたしなぁ…」
そうでしょう、そうでしょう!
だから、今日は…
「じゃあ、今日は一緒に風呂入るさ♪」
「うん!………は?」
違うでしょーッ?!
そこは普通、「今日は止めて、お互いぐっすり寝ようなv」でしょうがぁ!!
当然中止を告げる言葉が来ると思っていた私は、ラビの言葉にしっかり頷いてしまった。なんだかラビに軽くはめられた様な…。ず──んという効果音が背景に付いてるような私と対照に、ラビはるんるんに私の手を引いてお風呂場へ向かって行った。
(完敗だ…)
自分の服を脱いだ後、だらだら脱いでいた私の服にも手を掛け始めたラビを見て、私は再度、腹を括った。
「いやぁ〜アキと風呂入んの、いつぶりさねぇ〜」
ねvとバスタブの中で私を後ろから抱きしめながら、ラビは言った。それに、「さあねー」と適当に答えた私はもはや目が明後日を見ている。
許してください今日は。もう脳みそが、全身が、眠い!って叫んでいるの…。
そんな棒読みかつ素っ気ない私の反応が気に入らなかったのか、或いは眠くて仕方ないのがバレたのか、ラビは少し間を置いてから突然、私の胸を鷲掴んだ。
「きゃっ!…こらエロラビ!」
「んん?アキまた胸成長したさ?」
「誰かさんが随分とご協力下さったものですから…」
「サイズもばっちりで気持ちよくって…あーやっぱ我慢できねぇ!」
ラビはそう言うと、途端、胸を揉み始めた。
「ゃっ!ちょ…っ」
久しぶりの刺激の筈なのに、身体は素直な反応をしてしまい、私は身をよじらせた。
一方ラビはその反応に調子に乗ったのか、私のうなじから鎖骨へ次々とキスを落としていく。そのキスさえくすぐったくて、さらに私はラビの腕の中でもがいた。これは、明らかにアレなムードだ──ラビは交わりへの確信から、静かに口の端を吊り上げた。勿論、私はそれに気づかずに。尚も止まない胸への愛撫に脳がぼーっとしてしまう。
(っはぁ//だ、駄目…っ)
それに構わず、手は次第に胸の突起へと移動し…
「ぁんっ!ラ、…ラビぃ…っ」
「ん?アキの色気むんむんな声も久しぶりさ…えろ〜い」
ラビはわざと挑発するような事を言って私を焦らす。
「ラ、ラビっ……わた…し…もうッ…!」
「え?まさかアキ…もう突破しそうなんさ?」
いくらなんでも早過ぎる、とラビが驚き半分嬉しさ半分な表情で言う。
しかし臨界突破が間近な私には、ラビのそんな一言すら届いていない。
(もう駄目……限界っ…!)
瞬間、動きが止まり、私はラビに身体を預けた。
(嘘、イった…?)
…ん?なんかへんさ…。
ラビに身体を預けたまま、いつになっても動く気配のないアキ。ラビの経験上、自分が今まで幾度となく可愛がってきた彼女が、こんなところで意識を手放す筈がない。
「──…ッ!まさか…っ」
ふと、嫌な事が頭を掠め…ラビは横からアキを覗き見た。
「す──…」
(…ね、寝てる…)
そう、丸3日とちょっとを完徹したアキが越えたのは、眠気の臨界点だった。
「はぁあ…まじ、…そんなの無しさぁ」
体中の力が抜け、うなだれるラビ。
不完全燃焼のもやもやからアキを睨み付けるが、当然、彼女は気付くことなく夢の中。
「…ん……す―…」
「…」
しかし、自分が愛してる者の無防備な寝顔とはなんとも可愛いもので。
(まぁ、今回だけは許してやるさ…起きたら覚悟しとけよな、アキ)
***
数時間後──
パチ…
「……んっ…あぁ久しぶりによく寝れたぁ」
「お、アキ起きた?おはよ」
「あ、おはようラビ。なんか久々にちゃんと睡眠取れたって感じで超スッキリだよぉ」
「それはよかったさ。(棒読み)
じゃあスッキリしたアキに俺のもスッキリさせてほしいなぁ〜」
「ん?ラビなんか悩み事でもあるの?」
「実は〜…
彼女が久しぶりのHの途中で寝ちゃって、俺超中途半端で気持ち悪くて仕方ないんさぁ〜」
「は?……
…ッ!!(数時間前がフラッシュバック)」
「ってことでアキ、責任取って」
「ちょっ、ちょっと待っ……きゃぁあああ!!」
久しぶりに…?
(久しぶりに睡眠を堪能したアキは、久しぶりにラビの餌食となるのでした)
(061214)